読書の秋・ロシアの日本文学ブーム 

ソ連時代から、ロシア人は「読む国民」と呼ばれ、世界で最も読書好きの国として知られてきました。

もっとも、最近はロシアでも読書離れが進行中。インターネットやビデオ、DVD、ショッピング、携帯チャットなど、読書以外の娯楽が増えたこともあり、「まったく本を買わない」という人も増えているようです。それでも2004年にロシアで一年間に発行された書籍は6億8千万冊。これは日本で1年間に発行される書籍7億冊と匹敵する数字です。

05-10モスクワの中心。トベルスカヤ通りの大型書店は夜遅く(早朝2時!)まで営業しています。大きな本屋さんはいつもたくさんの人でにぎわっています。

実はソ連崩壊の年、1991年にはロシアで一年間に発行される書籍数は16億冊と膨大でした。今は書籍数は減りましたが、逆にタイトル数は急増し、多種多様な書籍が出回るようになりました。

モスクワでも本屋さんが増え、街の中心の大型書店の広大な売り場には、ありとあやゆるジャンルの本が並べられています。

ロシアで人気なのはなんといって探偵小説。売り上げのベスト6位まで、ユーモア探偵小説の女性作家たちがしめているのです。トップはダリヤ・ドンツォーヴァ女史で、彼女の推理小説のシリーズは2004年の一年間で1800万冊売れたというから驚きです(日本における売り上げ最大の本は『広辞苑』で発行数1300万部)。
そんななか、最近ブームになっているのが日本の小説や日本をテーマにした本。芥川龍之介から太宰治、三島由紀夫などの古典から吉本ばなな、村上龍、鈴木光司など、さまざまな日本の小説が翻訳され書店の目立つ場所に置かれています。 最近は横溝正史の「犬神家の一族」と「八つ墓村」が出版され話題になってます。

05-10書店の目立つ場所に「日本の小説コーナー」が

05-10ロシア語版・吉本ばなな「キッチン」。お箸を持った黒髪女性が印象的なデザイン。やはり日本色を強調せざるには・・・。

しかし、なんといっても一番人気は、昨今の日本文学ブームのさきがけともなった村上春樹。ハルキ本はどれもベストセラーとなっています。
その村上春樹をロシアで最初に翻訳・紹介したのがドミトリー・コヴァレーニンという人。この人は自著の村上春樹の解説本も出しているのですが、その中にある「村上春樹がロシアで出版されるまでにいたったエピソード」が実に面白いので紹介します。

コヴァレーニン氏は翻訳家としてデビューする前、日本に来て、新潟の港で通訳として働いていたそうです。朝から晩まで労働に追われるだけの毎日。文学を志しながらも自身の進む道を見失って悩んでいたコヴァレーニン氏は、村上春樹の「羊をめぐる冒険」と出会い、その世界にすっかり魅了されてしまいます。そして誰に頼まれたわけでもないのに、仕事が終わった後のアパートの部屋で夜な夜な翻訳をはじめ、3年かけてやっと完成。その後ロシアに帰った彼は、これを出版したいと思ったのですが、出版社とどうやってコンタクトをとればよいか分からない。そこで彼は自分のサイトをつくって、村上春樹の私的ロシア語訳をインターネット上で公開します。そのうちネットで村上春樹が知る人ぞ知る存在となり、大きな反響を得て、ついに出版社から話がきます。喜んだコヴァレーニン氏でしたが、出版の条件はなんと「出版に関わる費用をコヴァレーニン氏が負担すること」でした。資金の持ち合わせのなかった彼はあきらめざるをえなかったのです。

もうダメかと絶望しかけた彼の前に、「村上春樹の出版にかかる費用をすべて負担しよう」という謎の人物が現れます。コヴァレーニン氏にもよく分からないそうですが、その人物、どうやら「闇の仕事」(?)をしている人らしいです。でも村上春樹の大ファンでぜひ出版に力を貸したいという。「ふだんは悪いことをしているので、たまには良いことをしたい」(??)と言うその人のバックアップで、ドミトリー・コヴァレーニン訳による村上春樹の「羊をめぐる冒険」がやっと、ロシアではじめて出版されたのです。

05-10これがロシア語版・村上春樹「羊をめぐる冒険」。羊と寿司とお箸の組み合わせがけっこうポップです。 これがロシア語版・村上春樹「羊をめぐる冒険」。羊と寿司とお箸の組み合わせがけっこうポップです。


ロシアのインターネットの翻訳小説の無許可掲載→闇のフィクサーによる協力→出版→ベストセラーという経緯がいかにも現代ロシア的で面白いのですが、やはりなんといっても、コヴァレーニン氏の村上春樹への愛や情熱が、周りを動かし、不可能を可能にしたといえるでしょう。その後、村上春樹はロシアで大ベストセラーになり、現代日本文学ブームを呼び起こします。たくさんのロシア人が日本文学を手にすることになったことを考えると彼の功績は多大なものがあります。この話をきいたとき、たったひとりの夢や情熱が、誰かに伝わり、世界を変えるきっかけになることもあるのだと知って、感動しました。ちなみにドミトリー・コヴァレーニンの翻訳は原作の雰囲気を見事にロシア語で伝えており、素晴らしいです。時間と情熱をつぎこんだ彼の訳もベストセラーに大きく貢献していると思います。

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